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仙台高等裁判所 昭和41年(ネ)56号 判決 1967年4月03日

控訴人(第一審参加人) 谷藤孝一

被控訴人(第一審被告) 谷藤義蔵 外一名

被控訴人(第一審原告) 谷藤藤蔵

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。別紙目録<省略>記載の土地につき控訴人が所有権を有することを確認する。被控訴人谷藤義蔵は控訴人に対し、右土地につき盛岡地方法務局昭和三七年四月一三日受付第五七四三号所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。被控訴人畑山友栄は控訴人に対し、右土地につき盛岡地方法務局昭和三七年五月一〇日受付第六九八九号抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。参加による訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。」との判決を求め、被控訴人谷藤義蔵、同畑山友栄両名代理人は控訴棄却の判決を求めた。

本件における各当事者の事実上の主張並に証拠関係は次に記載するほか、原判決記載の事実摘示と同一であるからこれを引用する。

一、被控訴人谷藤義蔵、同畑山友栄の主張

別紙目録記載の本件不動産はもと被控訴人谷藤藤蔵の所有であつたが、被控訴人谷藤義蔵は昭和三七年二月初頃被控訴人谷藤藤蔵からこの不動産の贈与をうけ、その印鑑を交付されて印鑑届および印鑑証明書の下附手続、右贈与に因る所有権移転登記手続を委されたので、同月二四日右印鑑届をし印鑑証明書の下附を受けた上、同年四月七日付贈与証書により同月一三日右不動産の所有権移転登記を経由したものである。従つて本件不動産は被控訴人谷藤義蔵の所有である。

二、控訴人の主張

右一、の主張事実中、本件不動産がもと被控訴人谷藤藤蔵の所有であつたことは認めるけれども、その余の事実は否認する。

三、証拠関係<省略>

理由

一、当事者の地位と審判の対象について

本件は、被控訴人谷藤藤蔵が第一審原告として被控訴人谷藤藤蔵、同畑山友栄(第一審被告)に対し別紙目録記載の本件不動産が自己の所有なりと主張して所有権移転登記、抵当権設定登記の各抹消登記手続を請求したところ、右第一審被告等はこの不動産が被控訴人(第一審被告)谷藤義蔵の所有なりと主張してこれに抗争し、且つ、控訴人が本件不動産は自己の所有なりと主張して民事訴訟法第七一条後段により第一審参加人として、右第一審原告及び第一審被告等の双方に対し夫々所有権確認、所有権移転登記抵当権設定登記の各抹消登記手続等を請求して右訴訟に参加したが、第一審原告及び第一審参加人の右各請求についてはいずれもこれを棄却する旨の第一審判決がなされ、これに対して第一審参加人たる控訴人のみが控訴を提起した事案である。(なお、第一審原告は同人も一旦は控訴を提起したが(当庁昭和四一年(ネ)第五九号)、同人は昭和四二年二月一一日に至りこの控訴を取下げた。)かかる場合においては、第一審原告は特に附帯控訴をしない限り、第一審被告等と共に控訴人(第一審参加人)の右控訴についての被控訴人たる地位に立つに過ぎず、第一審原告が原審において申立てていた請求は別段控訴審における審判の対象にはならないと解するのが相当である。

蓋し、民事訴訟法第六二条は必要的共同訴訟人間に連合関係を認め共同訴訟人の一人でも有利な行為をすれば他の者にもその効果を均霑せしめる趣旨であると共に、その裏面においては不利な行為はたとえ共同訴訟人の一人がしても全員を害し得ないという趣旨を含むものであり、同法第七一条が同法第六二条を準用する所以のものは、右第七一条の訴訟関係が原告、被告、参加人の三当事者間の訴訟であり、この三者間に存する紛争を矛盾牴触することなく一挙に解決する必要があるところから、専ら右裏面の趣旨において一当事者の行為により他の当事者を害し得ないとの趣旨に基くものと解すべきもので、一当事者の控訴の提起のごときは当該控訴提起者が専ら自己のためにするもので、その効果を他の敗訴者に及ぼしてその者まで控訴人とすべき必要はないものというべく、若しこの効果を他の敗訴者にも及ぼして同人も同時に控訴人になるものとすれば、その後は自ら控訴を提起した控訴人と雖も単独で控訴を取下げることが出来ないこととなり、しかも控訴人間においては却つて自ら控訴した者が敗訴し場合により第一審判決よりも不利益に終ることを受忍しなければならないという不合理な結果になる虞があるからである。(最高裁昭和二九年(オ)第九六九号、同三〇年(オ)第三五五号同三二年一一月一日判決、同昭和三四年(オ)第二一二号同三六年三月一六日判決参照)

二、本案について

当裁判所も控訴人の請求は失当であるとの判断に到達したが、その理由は次に記載するほか原判決記載の理由と同一であるからこれを引用する。

(一)  原判決六枚目裏一三行(末行)目の「成立に争いのない甲第一号証………」から同七枚目表四行目の「………を綜合すると、」までを左のとおり改める。

「成立に争いのない甲第一号証、原審証人赤沢長吉、原審及び当審証人谷藤ハル、同谷藤留蔵、同藤倉ナミ、当審証人石川克二郎の各証言、原審における被控訴人谷藤藤蔵本人尋問の結果、原審及び当審における控訴本人尋問の結果、以上の各証拠によつて成立を認める乙第二号証の一、同丙第一、第二号証(但し、丙第二号証中官公署作成部分の成立については当事者間に争いがない。)を綜合すれば、」

(二)  原判決八枚目表二、三、五行目に「ハナ」とあるのを夫々「ハル」と改め、同九枚目表二、三行目に「証人森田ヨシエの証言及び被告義蔵本人訊問の結果」とある部分を「原審及び当審証人森田ヨシエの証言及び原審並に当審における被控訴人谷藤義蔵本人尋問の結果」と改める。

(三)  原判決九枚目表五、六行目に「次に、被告義蔵は本件不動産を原告から贈与されたものであると主張するので」とあるのを、「次に、被控訴人谷藤義蔵、同畑山友栄は本件不動産を被控訴人谷藤義蔵が被控訴人谷藤藤蔵から贈予されたものであると主張するので」と改め、同表七行目の「成立に争いのない甲第一号証………」から同一三行(末行)目の「………を綜合すると、」までの部分を左のとおり改める。

「さきに成立について判断した甲第一号証、成立に争いのない乙第九号証の一、二、原審証人下田七郎、同谷藤タカ、同高橋弥太郎、原審及び当審証人森田ヨシエ、当審証人佐々木健次郎、同温井清の各証言、原審及び当審における被控訴人谷藤義蔵本人尋問の結果、以上の各証拠によつて成立を認める乙第一号証、同第二号証の二、同第三、第四号証、さきに成立について判断した乙第二号証の一並に前示一、に認定の事実を綜合すると、」

(四)  原判決一一枚目表一〇行目の「証人谷藤ハル………」から同一二行目の「………訊問の結果は」までの部分を「原審及び当審証人谷藤ハル、同藤倉ナミ、同谷藤留蔵の各証言、原審における被控訴人谷藤藤蔵本人尋問の結果及び原審並に当審における控訴本人尋問の結果は」と改める。

(五)  原判決一一枚目表一三行(末行)目の次に左のとおり附加する。

「なお、原審及び当審証人谷藤ハル、当審証人石川克二郎の各証言と原審及び当審における控訴本人尋問の結果によれば、昭和三七年五、六月頃、ツギはハル、控訴人と同道して、警察署に赴き前記二、の(三)の所有権移転登記が不知の間になされた不法のものであると訴えたり、石川克二郎弁護士方を訪れて右移転登記等の抹消を求める訴訟提起を依頼していることが認められるけれども、前示一、及び二、の各(一)乃至(四)に認定の事実に照して見れば、ツギの右行動は本件不動産が被控訴人谷藤義蔵に二重に贈与されてその登記が経由され、それがハル、控訴人等の知るところとなつて憤激をかつたため、立場に窮したその場逃れのものと認むべきものであるから、これをもつて前示の判断を左右するに足らない。」

そうすれば、以上の判断と結論を同じくする原判決は相当であつて本件控訴は理由がのないでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第九五条、第八九条に従い主文のとおり判決した。

(裁判官 鳥羽久五郎 松本晃平 藤井俊彦)

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